けしのはな

沈黙を舌で味わう

目を逸らし続けて

昔から、僕は弱虫で、怖がりだった。

見たくないものからは目をそらし続けてきた。

それでも周りがどうにかしてくれたり、自分の器用さみたいなものでカバーしてきた。

 

社会人になってもうすぐ一年が経つ。

今まで通り、僕は見たくないものから逃げ続けている。

自分の実力不足や浪費癖、人間関係、そんな現実が怖くて、見ないようにしていた。

 

社会人は、社会というものに対する責任を背負わなければいけない。

自分の行動、発言全てに責任を持たなければならない。

見てないふりをしたこと、逃げてしまったこと、それらの責任は誰かが取ってくれるわけではない、全て積み上がっていくだけなのだ。

 

それでも僕は逃げ続けて、積み上がった「責任の山」が雪崩を起こすほどになった。

飲み込まれ、息もできず、僕は動けなくなる。

自分の弱さ自体で窒息する。

 

全て自分が自分に向き合ってこなかったことに由来する。

一度目を背けた対象は、より「見たくないもの」となって僕の名前を呼び続ける。

 

すぐに自分の弱さを克服することはできないけど、少しずつでも変わっていかなければならない。

 

好きなアイドルも、「変われない自分にもううんざりだ。」と歌う。

やり直したい、死んでしまいたいと思えるほどに逃げてきて、真っ暗で汚い部屋の中でうずくまる今日から、僕はどうにか抜け出したい。

 

今日、会社に行けなかった自分は本当に弱い。

でもいま自分に必要なのは、自分の仕事それ自体に向き合うことより、自分自身に向き合うことなのかもしれない。

 

自分の不得意なことに向き合い続けて無理をしても、それはただ頭が悪いだけだから。

本当に自分が輝ける形で、ちゃんと仕事に向き合って、責任を果たしていきたい。

 

僕は弱くて、誰かに支えられ、守られて生きてきた。

 

今僕は、支えたいと思える人がいる。

 

その人のために、まず自分が強くならなくちゃいけない。

いや、強くなれなくても、せめて自分の責任と自分の弱さから目を逸らさないようにしたい。

 

器用さと地頭みたいなものだけでいい大学に来て、人生に迷い、あまり考えず社会に出て、今こうして真っ暗な部屋で文字を打っている。

 

 

 

完璧じゃなくていいから、せめて自分で自分のことはわかっていられるようにしたいな。

 

次に推しに会いに行くとき、もっと立派になりたいって思ってたけど、どうにもまだまだ道は長いみたいだ。

 

でも必ず僕は変わる。なりたい自分になる。

 

なりたい自分になれた僕を、君に見てもらいたいから。

 

 

 

消えてしまえたら、いいのに

美味しい曖昧というアイドルを見てもうすぐ半年が過ぎようとしている。

 

つまり、初めてアイドルのライブに行ってから、半年が経つのだ。

 

無味乾燥な日々は潤い、流れるスピードも光の如く加速した。

 

それだけライブが楽しくて、ライブのある週末を待っている間すら愛おしく感じたものだ。

 

BGMが大きくなり、SEが流れる瞬間。

 

推しが音楽そのものになる瞬間。

 

特典会の最後尾札を受け取る瞬間。

 

ツーショかソロか伝える瞬間。

 

そのどれもがいつも同じようで、いつも緊張し、そしていつも楽しい。

 

 

他者の存在が自分にとって絶対的になるほど、自我は殻を破り外へと流出する。

 

自分は、今まで自分だと思っていた枠の中から、愛する他者の元へ惹きつけられていく。

 

無我夢中とはまさにそういった状態のことを言うのだろう。

 

 

この半年間、ただひたすらに楽しかった。

 

ひたすらに夢中になって、推しのいるところへ目を、足を運んだ。

 

だんだんと、苦しみが芽を出していることに気づかぬまま。

 

 

アイドル現場では、アイドル本人とのコミュニケーションが発生する。

 

推しは自分を認知してくれたり、覚えていてくれたりもする。

 

相手は「自分」とコミュニケーションを図ってくれるので、自分は多少なりとも「自分」である必要が生まれる。

 

目の前の推しに流出した自我が逆流し、自分という器に戻っていく。

 

推しは優しいので、僕を覚えてくれるし、肯定までしてくれる。

 

 

現場に通ううちに、僕は僕に戻ってきてしまっている。

 

つまり、自我を抱えたまま推しを愛してしまっている。

 

 

何も、悪いことではないのかもしれない。

 

しかし、誰かを自我ゆえに傷つけた記憶はいつだって蘇る。

 

自分の理想を、自分の欲望を相手に求めてしまい、相手の気持ちとは裏腹な行動を強いてしまったことがある。

 

それから僕は対人で自分をさらけ出すことが下手になってしまった。

下手になったというより、怖くなってしまった。

 

 

対人コミュニケーションが生まれる、アイドル現場それ自体が、本当は向いていないのかもしれない。

 

僕が完全に相手に理想を押し付けてしまうようになったら、それに気づいたら、僕はいけなくなってしまう気がする。

 

それでも、独りよがりになっていた僕の殻を破壊した推しに感謝も恩返しもしきれてない。

 

僕の自我なんて、欲望なんて、消えてしまったらいいのに。

 

ただ、推しが幸せでいられることをかすかに感じていられるなら、それでいいはずなのに。

 

僕の推しへの愛が、自己愛にすり替わる前に、僕は消えてしまいたい。

 

大好きな人を苦しめる前に。

 

 

なんて書いて、自分の弱さに驚いてしまう。

 

きっとこの発想自体が、自己保身で自己愛なんだろう。

 

 

愛することには技術も必要だ。

 

推しが幸せになるために、僕がもらった幸せへの恩返しをするために、何ができるだろうか?

 

そのための努力を惜しんではいけないし、逃げてはいけない。

 

 

いつか、僕が僕として、推しの前に立って、心の底から愛を伝えられるように。

生活習慣病

獣にふさわしい仕事からは、たくさんの富がつみかさねられるが、みじめな生活が結果する。
 ーエピクロス


 労働者となった。朝起きるたび、労働した昨日の記憶が、まるで可笑しな夢のように感じられる。それほどまでに非現実的な日々は、およそ二週間分が積み重なった。


 まだ研修の身ゆえ、大して生産性のあることをした実感はない。日々学ぶことが、どのように今後の労働ないし生活に影響を与えるのかすら想像の域を優に超える。ただ、その毎日に金銭報酬が発生しているらしい。


 労働というものは不思議なものだ。それは社会にとっての糞尿だ。社会の動態を維持するため排出される。金銭は血管を流れ、運動に必要な酸素を運ぶ。その図体は際限なく肥大化してゆく。

 

 もはや我々は社会という大きな怪物の欲望の一部となり、ひたすらに排泄されている。怪物が何を望み、どんな姿をしているのかすら知らずに。労働に纏わる倫理や美学は、奴の脊髄を走る。思考の制御を待つ前に、我々は労働している。我々にとって、指令は曖昧模糊な飢餓として感じられる。


 この怪物を我々は俯瞰することはできない。腸の蠕動に自分の自由な時間を送り出すことしかできないのだ。 立派な社会人とは、健康的な糞尿を輩出できる優秀な人材のことを言う。

 


 ああ、怪物よ!その姿は見えないが、存在することはわかっている。お前の暴飲暴食はいつまで続く?  生活習慣病はすぐそこにあるのかもしれない。

氾濫

 

(ふと)

 

追憶の川が逆流する。

汎ゆる思考を飲み込み

逆流する。

灯りかけた小さな炎をかき消し

全てを紫色に濡らす。

 

(堤防を越えて)

 

逃げ遅れた人々。

悪霊憑きの豚の群の様。

破滅の道をひた走り

飛び降りる。

 

(Стихия)

 

文明は水没する。

川は血が滲むように

拡がる。

 

(何を方舟に載せるのか?)

 

(それとも僕は…)

ジャズ

   臀部 臀部 臀部 臀部…

しかし収集つかぬ精神修行

   愚鈍 愚鈍 闘いと、歌…

ウパニシャッドを消化した

   四季 四季 四季 四季…

  うららかな春の哲学!

   血  知識 血  知識…

どこにも届かぬ去勢馬の夢

   臀部 臀部 臀部 臀部…

反ノスタルジー主義 宣言

私は反ノスタルジー主義を標榜する。

 

それはつまり未来主義であり、過剰なまでの現実主義であり、古い秩序の破壊を目論む前衛的立場である。

 

振り返ってはならない。オルフェウスよ!お前が愛した女などどこにもいないのだ。

 

 

過去とは、未来に照らされたわが身体が創り出す影である。

 

過去とは、熟成した毒杯である。

 

過去とは、自らの亡骸の山である。

 

 

自らの影に恋慕し、自らの亡骸の腐臭に酔うノスタルジー主義者どもよ!

 

私は諸君らを打倒するため、今ここに立ち上がる!

 

 

生とは未来へ投企する無限のダイナミクスである。

 

 

人間から生を略奪するノスタルジーを破壊せねばならない。

 

我々の共同体の影を飾り付けて生み出される「祖国」を破壊せねばならない。

 

毒杯を醸造する酒樽を破壊せねばならない。

 

 

私は瞬間ごとに自らの影を切り離し、自らを未来へ投企する。

 

人間はそれによってのみ、生きているのだから!

 

 

群青の女性器にその頭を突っ込んで物思いに耽る哀れな者たち!

 

羊水を水筒に入れて持ち歩く哀れな者たち!

 

お前らは生を喪失している!

 

自らをホルマリン漬けにし、無残な姿を我々に晒しているだけだ。

 

 

さあ前を向け。

 

お前の足に纏わりつく影を一つずつ断ち切るのだ。

 

その度にお前は加速する!

 

光を追い越すその時に、真の自由な生が始まるのだ!

ウヰスキーの瓶が空になるとき

きっと貴方は驚くだろう

ウヰスキーの瓶が空になるとき

愛は無尽蔵だと信じる貴方は

驚くだろう

 

それは循環せず

常に過剰だ

バタイユの見た夢

 

ノスタルジイ・オブ・エコー

耳に入らぬ

泉に顔を近づけて

花になった!

 

貴方がいつも言うように

それは一輪の生殖器

 

違う

 

それは...

 

 

ウヰスキーの瓶が空になったら

決してコルクを開けるべからず

真空を守り給え

新たにウヰスキーが湧き出るまで!