けしのはな

沈黙を舌で味わう

2021-01-01から1年間の記事一覧

それでも

美しく咲く花の苦しみを、我々は想像することすらできない。 私は私を生きることしかできない。 他者と自己の間には、深淵が横たわっている。 痛みというものは、個人的なものでしかありえない。 悲痛は肉体と可能性を滅ぼしてもなお、そこに漂う。 誰にも理…

デルタ・ノスタルジヤ

橋の上を滑るブレーキランプの群れその下を鴨川が流れている。時間と空間が交差するその先端に僕は立っている。 水面に映るその影は女。男。子供。大人。自分、自分。 蝋燭の火のように揺れる自我を切り離し。溷濁した精神を海へと流す。 空っぽの身体で水を…

おとな

僕らは数多の選択肢を持っている、そう思い込んでいるのかもしれない。大空を飛ぶ鳥のように、大海原を泳ぐ魚のように。 でも僕らはきっと、鳥のことも魚のことも、ろくに知らない。 人生というものを比喩的に語るなら、沢山の分かれ道を想像するかもしれな…

ひとはかわるらしい

10月20日は、坂口安吾の誕生日だそうだ。「堕落論」を最初に読んだ頃、僕は本質主義者だったからかその内容にひどく反感を覚えたものだ。人間の本性は堕落ではない、僕はそう思い込んでいたし、そう思っていたかったのだろう。きっと半年前でも同じ感想を持…

せいかつ

ボディソープの容器のふたを開けて、ストロー状の部分から滴り落ちる液剤を使うくらいなら、少なくなった時点で買いに行けばいいとあの人は言うだろうか。生憎僕は、そこまで賢くないもので。 祈りは生活に宿る、と信じている。信じている割には、生活を疎か…

五月

橙色の涙をはらりアスファルトに落とす雛罌粟に触れれば記憶に打ったセーニョを探す 公園のベンチは日向優しい君は頭を垂れて天邪鬼な僕は遠くを見つめる 風に吹かれて頭を揺らめかせる花のように君は… 白い雲… … 自分でも知らぬ純白な言葉が口の端から洩れ…

朧月夜

その花びらを山に残して無残な姿で登りゆく茎はゆつくり伸び、空は黒い葉っぱに包まれる さながらそれは悪魔の翼その瞳は涙に滲み鋭い牙を剥き出して天に向かいて咆哮す ああ神よ 孤独に咽ぶ我を見て何を思う? … 茎が世界を二分した時彼は消え 光に満ちてし…

痛みと信仰(前編)

ベッドにこぼれる 仄暗い灯りのもとで わたしはこの自分と自分の運命を あなたの最上の贈物だと意識するのが心地よいのです 《В больнице》 Борис Пастернак 不幸においてこそ神を知り得るとしたのは、哲学者シモーヌ・ヴェイユである。もちろん、不幸は神の…

時計

13時。日光が枕元に差している、絶好の昼寝日和だ。わざとカーテンを開けて、日差しを浴びながら眠ることにしよう。さっきまで干していた布団はまだ温かい。 昼寝するときはいつも、難しいことを考えない。就活のことも大学のことも全て枕元に置いておく。つ…

世界にとろける

今、就職活動にいそしんでいる。 一年留年しているから、同学年の友達や知り合いが間もなく社会人になっていくわけで、何か取り残された気分になるものだ。 就活では自己分析が重要だと、いたるところで言われる。当たり前のことだ。自分で自分を売り込むに…