けしのはな

沈黙を舌で味わう

生活習慣病

獣にふさわしい仕事からは、たくさんの富がつみかさねられるが、みじめな生活が結果する。
 ーエピクロス


 労働者となった。朝起きるたび、労働した昨日の記憶が、まるで可笑しな夢のように感じられる。それほどまでに非現実的な日々は、およそ二週間分が積み重なった。


 まだ研修の身ゆえ、大して生産性のあることをした実感はない。日々学ぶことが、どのように今後の労働ないし生活に影響を与えるのかすら想像の域を優に超える。ただ、その毎日に金銭報酬が発生しているらしい。


 労働というものは不思議なものだ。それは社会にとっての糞尿だ。社会の動態を維持するため排出される。金銭は血管を流れ、運動に必要な酸素を運ぶ。その図体は際限なく肥大化してゆく。

 

 もはや我々は社会という大きな怪物の欲望の一部となり、ひたすらに排泄されている。怪物が何を望み、どんな姿をしているのかすら知らずに。労働に纏わる倫理や美学は、奴の脊髄を走る。思考の制御を待つ前に、我々は労働している。我々にとって、指令は曖昧模糊な飢餓として感じられる。


 この怪物を我々は俯瞰することはできない。腸の蠕動に自分の自由な時間を送り出すことしかできないのだ。 立派な社会人とは、健康的な糞尿を輩出できる優秀な人材のことを言う。

 


 ああ、怪物よ!その姿は見えないが、存在することはわかっている。お前の暴飲暴食はいつまで続く?  生活習慣病はすぐそこにあるのかもしれない。