けしのはな

沈黙を舌で味わう

時計

13時。
日光が枕元に差している、絶好の昼寝日和だ。
わざとカーテンを開けて、日差しを浴びながら眠ることにしよう。
さっきまで干していた布団はまだ温かい。


昼寝するときはいつも、難しいことを考えない。就活のことも大学のことも全て枕元に置いておく。ついでに理性や知識なんかも一度ポケットにしまってみる。
自分が誰かすら分からないくらいに、曖昧な状態でベッドに入る。


そうすると、今僕が見えているもの、聞こえてるものだけが僕の世界になる。


この世界には、この部屋と、太陽しか存在しない。小さな立方体の中にいる気がする。不意に天井が開き、四方の壁は倒れてゆく。展開図の真ん中に僕のベッドがある。雲ひとつない、青空が広がる。
鳥の鳴き声がする。なんていう鳥だっけ?なんでもいい。いずれにせよ、世界の声だ。
全ての優しい音は、世界の音。言葉から遠く離れた、世界の意識の揺めき。
風が吹いているらしい。葉の擦れる音が聞こえる。


だんだんと時間の進みが遅くなってくる。鳥が鳴く。時計はその針を持ち上げるのにも気怠げだ。風が吹く。カチ、コチという音の感覚は次第に広くなっていく。そしてついに聞こえなくなる。静寂。

 


ああ、全てが止まった!

 


何もかもがぼんやりしている。僕は何も見ていないし、何も聴いていない。
太陽を中心に幾つかの思い出が重なり合っていく。誰かの影を感じる。夏だろうか?
眠りに落ちるたび、幾度も迷い込む思い出だ。


場所も時間も全て曖昧な記憶、太陽が眩しい。
太陽は真上にあるまま、一ミリも動かない。
耳を澄ませば蝉の声がする。
僕は自分を見ることもできないが、何か液体のようになっていることだけはわかる。


何かが混ざり、何かに混ざる。その流動体としての運動だけ感じられる。


僕はアメーバにでもなったのだろうか?でももう少しだけ…

 

 

 


目が開く。白い天井が目に映る。陽射しはもう部屋には入ってこないみたいだ。布団は温かい。

 

時計の音がチクタクと、規則正しく聞こえてくる……